地方議員の政務活動費の不正受給に対しては市民から大きな批判が集まりましたが、立ち位置を変えて議会改革を進める議会も増えてきました。早稲田大学マニフェスト研究所では、都道府県や市区町村を含めた2017年度「議会改革度調査」ランキングTOP300を6月7日に公開しました。
その中でみえてきた全体的な特徴のうち、今回は3つについて触れてみたいと思います。
- 上位陣が体系的な取り組みを導入しているため、TOP30の順位変動が少ない
- 「400位以上アップ」などTOP300以内で議会改革を飛躍させた議会が複数ある
- 「政活費の領収書ネット公開」など注目されるテーマで取り組みが進んだ
- 「議員のなり手不足解消」「女性が働きやすい環境づくり」「多様な人材確保」が増えつつある
議会改革度調査とは
本調査では以下の2つを目的に、2010年度から毎年調査をしています。今年で8回目の調査となります。
- 全国の議会改革がどのような状況・傾向にあるか、確認する指標として活用する
- 議会自身が改革度を数値で把握することで自己評価や改善をし、善い政治を競う『善政競争(ぜんせいきょうそう)』を促す
2018 年2月下旬にメールや郵送で調査依頼を都道府県・市区町村といった全地方議会に送付し、合計 1,318議会にご回答いただきました(回答率74%)。
※調査の概要、調査回答の受領状況、分析の観点の詳細はこちら
1.上位陣が体系的な取り組みを導入しているため、TOP30の順位変動が少ない
最初の特徴は、昨年も同様の傾向があった順位変動の少なさです。
本調査は、毎年度の議会としての活動や改革を議会側の自己申告でご回答いただくもので、今後の議会の存在意義や地域経営にとって大事だと私どもの研究所で判断した項目について、得点として数値化しているものです。
そのため、その年度だけ実施された取り組みもあれば、制度として導入されて活動が評価されるものもあります。
いわゆる「改革先進議会」と言われる上位議会では、議会の役割と責任を示した「議会基本条例」の制定などで改革の進捗を定期的に計画・実行・検証・改善(PDCAサイクル)を実施することを取り決めた議会や、住民意見を政策へ反映する「政策形成サイクル」を導入するなど、体系的な取り組みが導入されている議会が多いため、それが得点に反映され、順位にあらわれています。
2.「400位以上アップ」などTOP300以内で議会改革を飛躍させた議会が複数ある
「固定化」が特徴としてあらわれる一方で、議会改革を体系立てて項目化し、着実に推進する議会が躍進しています。
また、積極的に住民参加の場をつくる取り組みも評価され、ランキング上昇につながりました。
以下は順位が上がった議会の一例です。
■飛躍した大阪市会、岡山県真庭市議会、長野県喬木村議会の特徴
- 42位 大阪市会(2016年 607位):住民参加に力点をおき、新たに「高校生と大阪市会議員の意見交換会」開催
- 156位 真庭市議会(2016年 571位):15項目の「議会活性化策」を設け推進。政策討論会や市民と語る会も開催
- 181位 喬木村議会(2016年 585位):委員会の審査の過程を傍聴できるよう休日・夜間議会の運営に取り組む
一気に順位があがった議会もあれば、年々少しずつ順位が下がってしまう議会もあります。
「改革に終わりはない」といいますが、時代も変化し、住民も少しずつ変化していくなかで、地域住民が求める成果を出すためにも、改革への思いを議会として継続することも大切です。
3.「政活費の領収書ネット公開」など注目されるテーマで取り組みが進んだ
議会改革でよく注目される以下のテーマについてみていきます。
- 議会基本条例の制定状況
- 政務活動費の領収書ネット公開状況
- 議長選の立候補制導入状況
- 住民との対話の場の開催状況
- シティズンシップの取組み状況
- 議員へのタブレット貸与状況
- 女性議員が3割以上の議会
▽議会基本条例の制定状況
- 2015年 46%→2016年 51%→2017年 54%
- 毎年、右肩上がりで増加しています。基本条例はつくっただけではなく、どう運用していくか、特に検証のあり方が問われています。
▽政務活動費の領収書ネット公開状況
- 2015年 6%→2016年 11%→2017年 28%
- 2013年度は2%でしたが、政務活動費の不正受給問題などをうけてようやく3割近くまで増加しました。
▽議長選の立候補制導入状況
- 2015年 23%→2016年 25%→2017年 26%
- 市民に開かれた議長選のあり方に向けて少しずつ増加しています。
▽住民との対話の場の開催状況
- 2015年 47%→2016年 53%→2017年 53%
- 議会報告会などの増加は、いったん横ばい。しかし、一方通行の「報告」をするだけでなく、世代別やテーマ別の開催など、開催方法に工夫がみえます。
▽シティズンシップ推進の取組み状況
- 2015年 47%→2016年 53%→2017年 53%
- 従来の「模擬議会」などに加えて、出前授業や地域課題懇談会など多様な開催手法がみえます。
▽議員へのタブレット貸与状況
- 2015年 5%→2016年 9%→2017年 14%
- 今年ようやく1割を超え、議会のICT化が着実に進んでいます。
▽女性議員が3割以上の議会
- 2015年 4%→2016年 4%→2017年 4%
- ここ3年間は変わらず。選挙の候補者数をできる限り男女均等にすることを政党に求める法律が6月に成立したこともあり、2019年春にある、統一地方選挙後の結果に注目です。
まとめ
今回は、議会改革度調査2017からうかがえる全体傾向をみてきました。
上位陣については変動が少なくなってきており、「固定化」しつつあるようです。
これは、体系的な取り組みを導入して実現している議会と、そうではない議会が出てきているということでもあります。
制度を定めるには、議会としての意思決定が必要です。従来、「議員」としての存在感は十二分に発揮されていますが、執行部に対抗できる活動や機能の強化をどう果たしていくか。それを議会として制度を導入するという選択肢をとったということでもあります。
地域成果が求められるこれからの時代において、議員だけでなく会派の枠を超えた「議会としての活動」が求められています。
そうした「固定化」の一方で、大阪市会、岡山県真庭市議会、長野県喬木村議会など着実な改革を推進して一気に400位以上アップしてTOP300にランクインする議会もみられました。
また、注目テーマなどの推移をみれば、改革は着実に進んでいるといえるでしょう。
特に「議会基本条例の制定」は、調査では5割をこえました。本調査は町村議会の回答率が少々低いためそのバイアスは考慮すべきですが、2006年に北海道栗山町議会が制定した議会基本条例が12年を経て多くの議会で制定されたことは大きな意味があります。
また、「政務活動費の領収書ネット公開」は、2015年以来、政務活動費の不正受給問題に地方議会が対応した結果です。
特定の議会の不祥事を他人事とせずに、住民起点の改革を進めたといえます。
ただ、議会報告会などの「住民との対話の場の開催」や、多様な議会につながる「女性議員比率」などは割合が増えておらず、これからの改革に期待です。
次回以降で全体傾向の4つめ、「『議員のなり手不足解消』『女性が働きやすい環境づくり』『多様な人材確保』が増えつつある」ことを取り上げます。
≫当所のウェブサイト上に詳しい情報を掲載していきますのでぜひご覧ください。
※なお、「市区町村ランキング」「都道府県内ランキング」は11日より順次公開予定です。
※告知
7月11日~12日 早稲田大学で開催!
「全国地方議会サミット2018議会のチカラで日本創生」
1,000人の議員・事務局が一堂に会し「地方創生を地方議会がリードする」ための場面転換へ。野田総務相、片山元総務相、学識・有識者、先進議会等が登壇。
【日時】7月11日(水) 13:00~17:30/12日(木) 09:30~16:00
【場所】早稲田大学大隈記念大講堂
【対象】議会議員、議会事務局職員、一般 総計1,000名
【主催】ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟、マニフェスト大賞実行委員会 【共催】早稲田大学マニフェスト研究所
≫詳細はローカルマニフェスト推進地方議員連盟のページをご覧ください