早稲田大学マニフェスト研究所では、「どう自治体を変革・経営していくか?」を考える場として継続的にセミナを開催しています。今回は「事例に学ぶ自治体改革~ 生成AIとDXで実現する自治体の未来 ~」と題したセミナを2024年11月に開催し、生成AI活用の先進自治体として、東京都葛飾区、東京都町田市の事例を取り上げました。
■ セミナ参加者が業務に生成AIを活用している割合は61%
まず冒頭で、早稲田大学マニフェスト研究所・招聘研究員 西川裕也より、開催の趣旨について紹介。参加者が先進的な自治体の事例を学び、各地域に持ち帰る。そして、それぞれの地域でさらに良い政治を生み出していく。この「善政競争」を通じ、地域から日本を変えていくことを目指している、と説明がありました。
また、事前に参加者に実施したアンケート結果から、参加者が業務に生成AIを活用している割合は61%、生成AI利用に関するルールやガイドラインを策定している団体が64%であることが共有されました。かなり高い割合ですが、これはセミナの性質上、生成AIやDX活用に対して意欲があり、環境も整っている自治体の参加者が集まっていることが影響しているようです。

■ 葛飾区の取り組み「RAGによる区独自データ学習」
1つめの事例として、東京都葛飾区より、「業務をスマートに!葛飾区の独自データを学習した生成AIの活用」というテーマで発表がありました。講演は葛飾区政策経営部 DX推進課、NTTアドバンステクノロジ株式会社 アプリケーション・ビジネス本部 DXビジネス部門 ジェネレーティブAI担当。
まず、一般的な生成AIサービスを自治体が利用する際に、課題となることが多いのは回答の質です。つまり、生成AIが学習しているのはインターネット上の膨大なデータであって、自治体個別のデータではありません。そのため、葛飾区に関する質問をしても、回答を得られないことがあります。これは一般的な生成AIを導入した自治体の多くが直面する壁であり、それ以上活用が進まなくなってしまう要因の1つでもあります。
そこで今回、葛飾区ではNTTアドバンステクノロジ(株)の協力を得て、「かつしかChat」というシステムを構築。「RAG(ラグ):Retrieval-AugmentedGeneration」という技術を使って、葛飾区の持つ独自データをもとに、利用者の求める回答を生成できるそうです。
例えば、葛飾区の情報として、例規集やデジタル推進計画、議会議事録、地域防災計画など、38種類もの文書を「かつしかChat」に登録。職員は「かつしかChat」とのやりとりを通じ、議会議事録の抽出や起案文書の作成・添削などに利用できます。さらに、回答と一緒に参照した文書が表示され、職員が回答の根拠を確認しながら利用できるよう工夫されています。

《 参考 》
生成AI・RAGについては、(株)NTTアドバンスドテクノロジの佐藤様から技術的な解説も。RAGの仕組みをはじめ、苦労した点や工夫などについてもご披露頂きました。実は生成AIは人間の言語を理解・生成するために自然言語処理の技術をベースにしており、同社には自然言語処理の専門家が多数在籍しているそうです。

■ 町田市の取り組み「体系的なデジタル化施策の展開とアバター利用」
次に東京都町田市より、「市民にとって『やさしい』バーチャル市役所へ ~生成AIと3Dアバターで実現する次世代UX~」と題し、町田市 政策経営部 経営改革室長 兼 デジタル戦略室長 高橋 晃 氏とデジタル戦略室 担当係長 和田 進吾 氏から発表がありました。
まず、2名がアバターで登場。これには場内からもどよめきが起こりました。講演では「町田市デジタル化総合戦略2024の概要」、AIナビゲーター、オープンデータなど基礎情報を蓄積している「まちだベーシックデータ・プラットフォーム」の説明などがありました。

生成AIを利用した「AIナビゲーター」については過去の経緯も含めて紹介がありました。これまで町田市では、LINEなどを活用したオンライン行政手続きや、オープンデータなどのデジタルサービスに積極的に取り組んできました。一方で、数が増えたことで探しにくいなどの課題もあったそうです。そこで、入り口となるポータルサイトとして「まちドア」を開始。その中で生成AIを利用した3Dアバターの「マーチ」くんがチャット形式で手続きを案内してくれます。こちらにもRAG技術が使われ、ハルシネーションの防止と共に回答精度の向上に役立てています。

事例紹介の後には、司会と登壇者による対話形式で自治体DXについての議論を深めました。取り組みに至るまでの経緯や背景、DXを進めるうえでの苦労話など、普段はなかなか聞くことのできないテーマについて多くの発言がありました。参加した方々からも、時間内に回答できないほどの質問があり、生成AIをはじめとした自治体DXへの関心の高さが伺われるセッションとなりました。

最後は、早稲田大学マニフェスト研究所事務局長で熊本市政策アドバイザーの中村健による総括。特に、DXや生成AIを推進していくための組織・人材づくりが重要であることを強調し、閉会となりました。
今回は全国の自治体から約300名もの申し込みがあり、大変な盛会に終わりました。ご協力いただいた関係者の皆様に御礼申し上げます。
(早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 青木佑一、西川裕也)